鼻水を拭いている新郎。
かたわらの少年が彼の上着のすそをつかんで見上げます。
場面は披露宴のラストで新郎からのご挨拶です。
彼は8歳年上の、子どもさんが3人いらっしゃる女性と結婚を決めました。
二人でよく話し合い、子どもたちとのコミュニケーションも十分にはかり、新婦の子どもさんは喜んで下さいましたが、さて新郎の家族は…と事実を告げることに足踏みする気持ちがあったようです。
反対されても二人で頑張ろうと覚悟してご家族に紹介しました。
その時お父様はうつむきお母様は泣き始め、やはり反対かと思ったら「よかったよかった」と泣いていたのだそうです。
彼の手紙は続きます。
「世間の目は温かいものばかりではなく、どうせうまくいかないという声も聞きました。でも私たち家族はずっと仲良く暮らし、添い遂げます。彼女の長男から『お父さん』と呼ばれたときに、死んでもこの子を守るんだという気持ちで一杯になりました。夫として以上に、子どもたちの実の父として生きようと決心しました。彼女にもその気持ちを話してあります。」
このあたりから会場はシーン。
私も深い呼吸とともに新郎の言葉に聞き入ります。
「意地を張っているのではなくて、親としての責任を果たしてこそ結婚の意味があると思います」で、どなたかが拍手しました。
「これは私に与えられた使命です。この子たちのために私は生まれてきたと今は実感できます。お父さん、お母さん、そうでしょ? 」
「よし!! それでよし!」
お父様の声。
「賛成してくれてほんとうにありがとう。これからもよろしく」と手紙は結ばれました。
そして彼は三人の子どもたちをぎゅーっと抱きしめたんです。
花嫁さんは両手で顔をおおってしまいました。
すぐには拍手が起こらない間があって、これは作られた映画? と思ってしまいそうなドラマがそこにありました。
司会席の手紙のコピーに涙がぽとぽと落ちました。
先日、その彼から久しぶりにメールが。
子どもが授かり、他の子どもも立会って全員で出産を迎えたそうです。
名前は家族みんなで相談して結(ゆい)ちゃんに。